今回は私の経験の話です。
あまり面白くないと思います・・・
実話ですが古い話なので、多少脚色はあるかもしれません。
思い出なので、都合の良いようになってるかもしれません。
1990年代前半 新大久保のマクドナルドにて
今から30年前、私は新大久保のマクドナルドでアルバイトをしていた。
当時の新大久保は今からは考えられない位アンダーグラウンドな街だった。
西戸山公園の寄せ場に集まる日雇い労働者、歌舞伎町から流れてきた路上生活者、非正規なルートで入国してきた外国人などでカオスな街だった。
若い人は知らないだろうが当時のマクドナルドでは、ハンバーガーは作り置きしていた。
できたてを提供するために、作ってから10分経ったハンバーガーは廃棄していた。
SDGｓのかけらもない時代だった。
路上生活者の多い街で食べ物が沢山入っているゴミ袋がどうなるか？想像に難くない。
ゴミ置き場に置いたゴミ袋達は、毎日街中にあふれているハンター達に漁られて、荒らされていた。
ゴミの置き場は漁られないために鍵のかかるロッカーになっていた。
それでも入りきらないゴミが出てしまうと、たちまちハンターの餌食になってしまっていた。
深夜のアルバイトはハンター達との戦いも仕事のうちだった。
正直嫌な仕事だった。
穏やかな表情の路上生活者
ある夜のバイト中、ゴミを捨てようとゴミ置き場に行くと一人の路上生活者が立っていた。
年齢は40前後、身なりは汚いが、穏やかな表情。少し怯えているような感じもあった。
そのゴミ貰っても良いですか？
怯えた声で男が声をかけてきた。
は！？ダメに決まってるだろ！
慣れた口調で私は答えた。
そうですよね。すいませんでした。
肩を落として引き下がっていく男性。他のハンター達とは違う何かを感じて、私は声をかけてみた。
聞いてみるとその男性は、
仕事を求めて地方から東京に出てきました。
仕事があると言われてきたけど、騙されて、手付金だけ取られてしまった。
疲れて駅のベンチでウトウトしていたら荷物が全て無くなっていた。財布も身分証明書も。
みんなの反対を押し切って出てきたから故郷には連絡できない。
そんな感じだった。
わかったよ。好きにしろよ。でも、周りを汚すなよ！！
相当感じの悪い言い方だったと思う。
ありがとうございます
男性の表情が和らいだ気がした。
キレイになっていくゴミ置き場
しばらくしてから、またゴミを運んで行った時に驚いた。
ゴミロッカーが見たことないくらいキレイに掃除されていたのだ。
周りを見回しても先程の男性の姿は無かった。
翌日もバイトだった。
ゴミを捨てに行くとき、正直ちょっと期待していたが、やっぱり昨日の男性がそこに立っていた。
私は
昨日ごみのロッカーがキレイになっていた驚いたよ。ありがとう。
とどう考えても年上に使う言葉使いではない言い方で礼を伝えた。
男性は明らかに年下である私に
いえ、こちらこそありがとうございました。おかげさまでなんとか生きていられました。
と丁寧な言葉。
その日もゴミ袋を彼に渡した。
後でまたゴミ置き場を見たら昨日よりも更にキレイになっていた。
私はこの経緯をバイト仲間たちに伝えた。私が休みの日も彼に優しくしてあげて欲しいと。
次の日からは私以外のバイト仲間もその人にゴミを渡した。
ゴミ置き場はどんどんキレイになっていった。
いつの日からか、夜に出すゴミは廃棄した食品が汚れないよう、ビニール袋に包んでおくようになった。
私も仲間たちも彼の事が好きになっていた。
みんなゴミを出す時は彼を探すようになっていた。
別れの日
そんな日々が数か月続いたある日、ゴミ置き場にいた彼の表情はいつもと違っていた。
おかげさまで住み込みの仕事が決まりました。
その時初めて聞いたのだが、実はクレーン技師の資格を持っていたのだという。
これまでありがとうございました。皆さんのおかげです。
そう言う彼の横にあるゴミ置き場は、見たことも無いくらい最高にキレイになっていた。
私は急いでバイト仲間を呼び、みんなでお祝いを伝えた。
その日以降、彼の姿を見ることは無かった。
戻ってこなかったという事は、きっと良い結果になったのだろう。
真面目な人だったし、苦労を乗り越えた人だからきっとうまくいったのだと思う。
出会いに感謝
私はあの人に出会えたことで、見かけや肩書で人を判断しないようになれたと思う。
あの人に出会えていなかったら、今の私はもっとダメな人間になっていたと思う。
あれから30年が経ち、その後一回も会うことも無く、名前も覚えていないけど、彼に感謝しています。
ありがとうございました！
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